SL全盛期の客車復刻 「SLやまぐち号」新編成、9月2日デビュー


旧型客車を復刻

 JR西日本は2017年6月9日(金)、山口線を走る臨時快速「SLやまぐち号」の、今年9月から12月までの運転計画を発表しました。
 9月2日(土)から12月24日(日)までの土休日(11月23日を除く)、新山口~津和野間62.9kmで運転されます。運転時刻は現在と同様、次のとおりです。
・下り
 新山口10時50分発→津和野12時59分着
・上り
 津和野15時45分発→新山口17時30分着
 下り列車は地福で14分間停車(12時17分着、12時31分発)します。また、9月2日(土)に限り、下り列車に運転時刻の変更が生じます。
2017年9月から運行が始まる「SLやまぐち号」用の新しい客車(2017年6月、恵 知仁撮影)。
SLやまぐち号」は、9月から開催される観光キャンペーン「幕末維新やまぐちデスティネーションキャンペーン」にあわせ、新しい客車5両が導入されます。「SL全盛期の客車を復刻した新しいレトロ客車」(JR西日本)といい、昭和初期に製造された旧型客車の形式としながらも、バリアフリー対応の多機能トイレや電源コンセントなど、最新の設備もあわせ持っています。
 列車は全車指定席です。乗車には乗車券のほか、指定席券やグリーン券が必要。きっぷは乗車日の1か月前午前10時から、駅にある「みどりの窓口」などで発売されます。


SLを今後数十年は、走らせ続けるために

 JR西日本が、昭和初期に誕生した旧型客車を復刻。2017年6月4日(日)、新山口山口市)で報道陣へ公開しました。
1938年に製造されたマイテ49形一等展望車をモデルに復刻されたオロテ35形。「ぶどう色」という旧型客車の色を身にまとう(2017年6月4日、恵 知仁撮影)。
 国鉄(JR)初の復活SL列車として1979(昭和54)年から、山口線新山口駅と津和野駅(島根県津和野町)のあいだで運行されている「SLやまぐち号」用の新しい客車で、JR西日本によると、同列車を持続的に運転するため今回、SL全盛期に走っていた旧型客車を復刻したといいます。
 JR西日本は、車両の老朽化といった課題はあるものの、これまでの歴史的経緯や利用者に好評であることをかんがみ、産業革命の原動力で、近代日本における産業遺産のひとつである「SL」を後世に継承することは同社の社会的使命だと考えているといい、持続的なSL動態保存(動く状態で保存すること)体制の整備に着手。今後、少なくとも数十年程度は安定的にSLの動態保存を継続できるよう、SLの解体検査に特化した専用検修庫も新設しています。
 このたび公開された復刻車両35系のコンセプトは、「SL全盛期の旧型客車であるマイテ49、オハ35、オハ31を復刻」「SLの音や煙を体感できる開放型展望デッキや開閉窓の設置」「SLを体験し学べるフリースペースの設置」「バリアフリー対応、ベビーカー置場、温水洗浄機能付きトイレなどによる快適性向上」の4点。昭和初期の車両を復刻したものですが、窓が開けられるといった古い車両の特徴、雰囲気と、最新の快適性、サービスを併せ持っているのが大きなポイントです。もちろんクーラーが搭載されており、トイレは温水洗浄便座、照明はLED、停車駅の案内などをする車内液晶モニターも。グリーン車の各席、それぞれのボックスシートにコンセントも用意されました。
 JR西日本の担当者によると復刻にあたり、安全基準の変化で往時は使えた材料が現代では使えないこと、古い資料を集めることなどが難しかったといいます。安全性確保のため、ドアも自動ドアになっています。

21世紀に誕生した昭和初期の車両35系、その車内は?

 旧型客車を復刻した35系は5両で、定員は合計で245名。全車両禁煙です。

1号車「オロテ35-4001」

 1938(昭和13)年に製造され、東京~下関間を結ぶ特急「富士」などに使われた一等展望車マイテ49形を復刻した車両です。開放型の展望デッキを持つグリーン車で、定員は23名。車内には2人掛けと1人掛けのリクライニングシートが並び、一部は2人、4人掛けのリクライニングするボックスシートになっています。
展望デッキの反対側から見たオロテ35形。小さなグリーン車マークがある。 オロテ35形の展望室。 回転リクライニングシートが並ぶオロテ35形車内。
 設備は展望デッキのほかソファのある展望室、洗面所、洋式トイレ、荷物(ベビーカー)置場、乗務員室、業務用室、電動空気圧縮機(ブレーキなどに圧縮空気を使う)があります。
 ちなみに「オ」は、定員分の乗客を含む車両重量が32.5t以上37.5t未満、「ロ」はグリーン車、「テ」は展望車を意味。「オロテ35-4001」は「車両重量32.5t以上37.5t未満のグリーン車、展望車構造である『オロテ35形』という車両の製造番号4001」ということになります。製造番号は必ずしも「1」から順にふられるわけではなく、「オロテ35形」はこの1両以外に存在しません。

2号車「スハ35-4001」

 1939(昭和14)年から製造され、戦後まで全国を走った三等車オハ35形を復刻した車両です。4人用のボックスシートが並ぶ普通車で、定員は64名。洗面所と洋式トイレ、男性小用トイレ、荷物(ベビーカー)置場、大型荷物スペースを備えます。
2号車のスハ35形。床下にディーゼル発電装置を搭載する。 ボックスシートが並ぶスハ35形車内。 スハ35形車内。網棚やフックの金具も凝っている。
「ス」は車両重量37.5t以上 42.5t未満、「ハ」は普通車という意味です。この車両は発電装置と電動空気圧縮機もあります。

シミュレーションゲームがある車両

 このたび登場する復刻客車35系は、津和野に向かって走る場合は1号車が最後尾に、新山口駅に向かって走る場合は5号車が最後尾になります。

3号車「ナハ35-4001」

 2号車と同じくオハ35形を復刻したもので、4人掛けボックスシートが並ぶ普通車、定員は40名です。荷物(ベビーカー)置場のほか、イベントコーナー、展示スペース、販売カウンターが備えられているのが特徴。シミュレーションゲームも楽しめます。
3号車のナハ35形。1両の半分が座席、半分がイベントコーナーなどになっている。SLやまぐち号」の資料などが展示されているナハ35形車内。 ナハ35形車内にあるSLの運転シミュレーションゲーム
「ナ」は車両重量27.5t以上 32.5t未満、「ハ」は普通車という意味です。この車両には作業者控え室もあります。

4号車「オハ35-4001」

 2号車、3号車と同じくオハ35形を復刻したもので、4人掛けボックスシートが並ぶ普通車、定員は72名。洗面所と洋式トイレ、男性小用トイレ、荷物(ベビーカー)置場を備えます。
4号車のオハ35形。各車両とも自動ドアで、各ドアに個別に開けるためのボタンもある。 ボックスシートには大型テーブル。窓の下にはコンセントもある。写真は3号車ナハ35形。 窓には、開くための昔ながらの金具が。写真は3号車ナハ35形。
「オ」は車両重量32.5t以上 37.5t未満、「ハ」は普通車という意味です。なお4号車と5号車は、今回の報道公開時点ではまだ内装工事中であったため、車内の写真はありません。

5号車「スハテ35-4001」

 1927(昭和2)年から製造された、戦前を代表する客車オハ31形(三等車)を復刻した車両です。4人用のボックスシートが並ぶ普通車で、定員は46名。開放型の展望デッキと洗面所、多目的室、バリアフリートイレ、荷物(ベビーカー)置場を備え、車いす対応席(2席)もあります。
 またこの車両は、モデルになったオハ31形の「ダブルルーフ(二重屋根構造)」も再現されています。外のあかりを車内へ導くための構造ですが、復刻車両ではそこからあかりをとるわけではないそうです。
5号車のスハテ35形。ダブルルーフ構造で、あかりをとるための小さな窓が車体上部にある。 普通車の日よけは木製の鎧戸。グリーン車はカーテン。写真は3号車ナハ35形。 鎧戸を開けた状態の普通車。写真は3号車ナハ35形。
「ス」は車両重量37.5t以上 42.5t未満、「ハ」は普通車、「テ」は展望車という意味です。この車両は乗務員室、業務用室、発電装置、電動空気圧縮機も備えます。
 これら復刻された旧型車両は、今年2017年9月から始まる観光キャンペーン「幕末維新やまぐちデスティネーションキャンペーン」に合わせて登場する予定です。
 また復刻された新客車の投入にあわせて、新山口駅地福駅山口市)を昭和初期レトロ調にするなど、「SLやまぐち号」停車駅の一部改修も行われ、JR西日本によると、いままで以上に線区全体で「SLやまぐち号」のを楽しめるようになるといいます。

SLやまぐち号」用35系客車の主要諸元 設計最高速度は110km/h

主要諸元

・空車重量(最大):編成重量 定員時180t以内
客定員:245名(普通車222名、グリーン車23名)
・設計最高速度:110km/h
・減速性能:4.9km/h/s
・曲線通過速度:基本の速度
・おもな使用線区:山口線山陽本線
・併結可能形式 牽引車:C57、D51、EL、DL、キヤ143
・併結可能形式 客車:同一形式のみ
DE10形ディーゼル機関車によって新山口ホームまで運ばれた新客車。 1号車オロテ35形には「一等車」を示す白帯が巻かれている。 風を感じながら楽しめる、1号車オロテ35形の開放型展望デッキ。

基本仕様

・車体構体:鋼製車体、ダブルルーフ(一部車両
・ドア枚数 先頭車:片側1扉、片引戸
・ドア枚数 中間車:片側2扉(一部1扉)、片引戸
・側窓構造:上昇式
座席構成 普通車:ボックス席
・座席構成 グリーン車:回転リクライニング
・ブレーキ構成:電気指令式空気ブレーキ(ブレーキ管圧力読換機能付)
安全設備:車両異常挙動検知装置、転落防止ホロ、後方映像記録カメラ、非常時用展望デッキ避難通路
・おもな設備:多目的室、多機能便所、洋式便所(温水洗浄便座付)、荷物置場(ベビーカー置場)、イベントコーナー、大型荷物スペース、編成両端のオープン展望デッキなど

見た目はレトロな雰囲気を出しつつ中身は現代に合わせた内容に驚きを隠せません。JR東もこういった客車を造ってみたらいかがだろうか。


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