注目高まる武蔵野線、潜在力をどう引き出すか


全線開業から40周年を迎えた武蔵野線に改めて注目が集まっている(写真:tarousite/PIXTA

2月中旬の平日、「武蔵野線全線開通40周年記念ヘッドマークグッズ」を求めに、東日本旅客鉄道JR東日本武蔵野線のある駅のNewDaysへ立ち寄った。しかし、陳列棚に残っていたのは缶バッジセットのみであった。
グッズを発売したJR東日本リテールネットによると、「2月中旬の時点で、缶バッジ、クリアファイル、スマホケースとも、ほぼ完売のペースでご購入いただいている」と好調ぶりを明かす。全線開業から40周年を迎えた武蔵野線に改めて注目が集まっている。

全線開業40年を迎えた武蔵野線

武蔵野線日本国有鉄道国鉄)により、1973年4月1日に府中本町駅東京都府中市)―新松戸駅(千葉県松戸市)間などで部分開業した。
武蔵野線は、山手貨物線を迂回して東海道本線方面と東北本線方面を結ぶ貨物線として計画されたため、開業当初の旅客列車は、ラッシュ時15~20分間隔、日中40分間隔での運行だった。一方、当時の首都圏では珍しい自動改札機が設置され、先進的な側面ももっていた。
その後、1976年3月1日の鶴見駅(神奈川県横浜市)―府中本町駅間の貨物営業区間開業を経て、1978年10月2日の新松戸駅西船橋駅(千葉県船橋市)の延伸で全線開業を達成した。なお、1987年4月1日の国鉄分割民営化に伴い、JR東日本に継承され現在に至っている。
全線開業により武蔵野線は、鶴見駅から府中本町駅北朝霞駅(埼玉県朝霞市)・南越谷駅(同越谷市)・新松戸駅などを通り抜けて西船橋駅へと至る100.6kmの路線となった。
このうち、定期旅客列車が運行されるのは府中本町駅西船橋駅間71.8kmなどで、鶴見駅府中本町駅間は臨時旅客列車以外は貨物列車のみが運行するため「武蔵野南線」の通称で呼ばれ、区別されることもある。
地元自治体などからは「武蔵野南線」の旅客化要望もあったが、貨物列車の本数が多く旅客列車運行の余地がなく、工事期間が長期におよび工事費も多額となることや、地下深いトンネルでは適切な駅間での途中駅の設置が困難であるなどの課題が明らかとなった。そのような中でJR東日本および日本貨物鉄道JR貨物)が、旅客化は困難との見解を示したことから、2000年の運輸政策審議会答申第18号では、旅客化構想から除外されている(川崎市ホームページ「よくある質問(FAQ)地下鉄の代替案としてJR武蔵野南線を活用できないのか?」より)。

武蔵野南線」の旅客化は遠のいたが、府中本町駅西船橋駅間の旅客営業区間は平成時代に大きな変化を遂げることになる。
昭和時代が終わる直前の1988年12月1日に西船橋駅を介して京葉線との直通運転が始まった。さらに、1990年3月10日には京葉線東京駅延伸開業に伴い同駅発着の武蔵野線直通列車が運行を開始し、さらなる利便性向上が図られている。なお、京葉線との直通運転は、武蔵野線沿線と東京ディズニーリゾートの間のアクセス利便性向上に貢献していることも特筆すべきことである。
沿線では大型商業施設が相次いで開設されたことにより、買い物利用も増えた。中でも、越谷レイクタウン駅は、駅直結のショッピングモールを含む越谷レイクタウンの街開きに応じて開設され、通勤・通学のほか、これら商業施設への買い物などに利用されている。

通勤・通学の輸送以外に活躍

加えて、スポーツスタジアムや公営ギャンブル場も沿線に立地し、日常利用しない人たちの武蔵野線利用を促している。日本中央競馬会JRA)の2つの競馬場(東京競馬場中山競馬場)を直接結ぶ鉄道路線であることは、競馬ファンの間ではよく知られている。
また、プロ野球埼玉西武ライオンズメットライフドームや、Jリーグ浦和レッズ埼玉スタジアム2020などへ向かう観客も武蔵野線を利用している。さらには、沿線に点在する獨協医科大学埼玉医療センター(埼玉県越谷市)などの複数の大病院への通院手段としても広く利用されている。
武蔵野線は、当初主に想定されていた貨物輸送と通勤・通学輸送の枠を大きく超えて、医療機関への通院輸送、大型商業施設への買い物輸送、レジャー施設やスポーツスタジアムなどへの行楽・観客輸送、そして隣県観光地への観光輸送など多彩な役割を担うようになった。
そして、沿線開発の進展に伴う人口増に応じて、他路線からの乗換利用も増えて乗車人員は伸長し、列車本数は段階的に増発された。また新駅設置や京葉線などとの直通運転も行われ、利便性は大きく向上した。武蔵野線沿線の風景や旅客流動はとりわけ、平成時代に大きな変化を遂げた。同線発展の軌跡は、平成時代の進展に重なる。
間もなく平成が終わりを告げ、新しい時代が幕を開ける。武蔵野線を次時代により良い形で引き継ぎ、発展させるため、次の3点を提案したい。

武蔵野線の発展へ向けた提案

第1点は、最新鋭車両の投入である。運用車両は、他路線からの転用車両が大半を占める。
東京メガループ」を構成する武蔵野線京葉線南武線横浜線の中で、新型車両のE233系が投入されていないのは武蔵野線だけである。次の車両更新時に、京葉線武蔵野線の車両形式を統一し、車両メンテナンス負担の軽減を図ることでコスト削減につなげたい。そして何よりも、武蔵野線のイメージアップにつげるためにも、最新鋭車両の投入が待たれる。

第2点は、多彩な乗車目的に対応するサービスとしての有料座席・特急列車の検討である。船橋法典駅以北と東京駅の間などの中距離利用や、朝の混雑が特に激しい東浦和駅南浦和駅間(2017年度の混雑率170%)などで、一定の着席需要が期待できる。
鉄道ジャーナリストの北村幸太郎さんも「有料座席は(比較的運行距離が短い)京王ライナーなどで実績があり、武蔵野線でも可能性はある」と期待を示す。また、北海道教育大学の武田泉准教授(地域交通政策論)は「大宮―八王子か、大宮―我孫子―成田空港間などに、特急列車を1時間おきに運行するのが望ましい」と提案する。
東京の外縁部を結ぶ鉄道路線のうち、東武野田線で一足早く有料特急の運行が実現していることを見ても、武蔵野線でも例えば、特急列車やロング・クロスシート両用車両による一部車両の有料座席などに一定のニーズがあることは間違いない。

第3点は、都内の他路線への旅客流入抑制と、武蔵野線の利用促進の両方を実現するうえで、貨物輸送のみならず旅客輸送でも都心を経由せずに、東京の外縁部を移動できる特性を最大限に生かした方策を企画し実行に移すことである。
東京隣県間の移動時間の短縮や都内への交通流入抑制の機能を担っている武蔵野線以外の交通網として、例えば東京外かく環状道路(外環道)がある。外環道は既存道路と有機的に接続するなど利便性を向上させることで、期待された機能を発揮している。武蔵野線のさらなる発展を実現するうえで、外環道から学ぶべきことは多い。
具体的には、東北・上越新幹線への乗り換えを東京駅・上野駅から大宮駅へと誘導することを目指し、同駅発着の「むさしの号」「しもうさ号」の増便を検討したい。
また、新秋津駅西武池袋線秋津駅間の乗換経路の改善など他鉄道路線との接続利便性向上や、北朝霞駅武蔵野線)・朝霞台駅東武東上線)など、事実上の同一駅であるにもかかわらず鉄道会社間で異なる駅名を統一し、乗換駅としての認知度向上を図ることも有効と考えられる。

さらなる積極策により乗車人員数を伸ばせる余地は依然として大きいと筆者は考える。実際、「東京メガループ」各線の2017年度1日当たり平均通過数量を見ると、京葉線17万7849人、南武線立川駅―川崎駅間20万5221人、横浜線23万1016人に対して、武蔵野線は11万4143人にとどまる。
しかし、国鉄分割民営化初年度の1987年度(4万7090人)と比べて242%と大きく増加したことが武蔵野線のポテンシャルを示す。これまでは列車本数増発や新駅設置、京葉線との直通運転などの利便性向上がさらなる乗車人員増を導く好循環を生みだしてきた。今後もさらなる積極策で発展を図ることができるはずだ。

JR東日本などの取り組みに注目

本記事を結ぶにあたり強調したいのが、JR東日本ステークホルダーの協働の重要性だ。
今後の取り組みについて、JR東日本千葉支社は「E231系MU2編成への全線40周年! 記念ヘッドマーク取り付けは現場社員の発案により具現化した。今後は、期間限定で同編成の先頭車にラインカラーを模した吊り手とフリースペース部の窓ガラスへのステッカー貼付を行うことを予定している」と説明する。
さらに「タブレット端末導入による異常時多言語案内放送の試行のため、同編成において放送装置へのタブレット中継器の取り付けを実施する」(同支社)という。
また、新松戸駅新八柱駅間では、松戸市が新駅設置希望し、JRとの交渉を要望する。
路線価値向上を含む武蔵野線のポテンシャル拡大に向けたJR東日本ステークホルダーによる協働と取り組みの本気度が問われている。


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