東横線「新横浜直通」で新幹線アクセス激変か


相模鉄道が今年2月から運行を始めた新型車両「20000系」。2022年度下期に相鉄が東急線に乗り入れる際に使われることが想定されている(撮影:尾形文繁)
首都圏の大手私鉄で唯一都心に乗り入れていないのが神奈川県地盤の相模鉄道、通称「相鉄」だ。その悲願である都心乗り入れに向け工事が着々と進行している。目下、鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)が相鉄線・西谷と東京急行電鉄東横線・日吉を結ぶ新線を建設中。
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そのうち、相鉄・JR直通線(西谷―羽沢横浜国大間)は2019年度下期に完成し、相鉄とJRの直通が実現する。JR乗り入れ後は湘南新宿ラインと同じルートで武蔵小杉、大崎、渋谷、新宿へ向かう。さらに池袋、大宮方面まで走る可能性もある。また、横浜市東海道線への乗り入れによる品川、東京方面への直通を要望している。
残る相鉄・東急直通線(羽沢横浜国大―日吉間)は2022年度下期完成の予定だ。このルートでは、相鉄線は日吉で東急東横線と直通する。日吉―田園調布間は東横線との複々線という形で目黒線も走っており、相鉄線目黒線とならスムーズに直通できそうだ。

渋谷乗り入れは難しい?

では相鉄・東急直通線の列車は目黒方面ではなく、一部の列車だけでも渋谷方面に向かうのか。さらに渋谷から東京メトロ副都心線経由で西武鉄道池袋線東武鉄道東上線に乗り入れる可能性はあるのか。
相鉄側の計画では目黒と渋谷、両方面と直通することになっている。一方の東急側は「両方につながる」と言いながらも、公式資料に記載された路線図を見るかぎり、相鉄線が渋谷に直通するようには思えない。東急関係者の間でも「渋谷方面は難しいのではないか」とささやかれるなど、渋谷直通には消極的に見えた。
だが、実は東急側も相鉄線の渋谷直通の実現に大きな期待を持っている。「相鉄・東急直通線が渋谷まで直通することは、当社にとってもメリットが大きい」と、東急のIR(投資家向け広報)担当者は明かす。
東急側のメリットとは何だろう。直通線の完成によって利便性が高まった相鉄線沿線に移り住む人が増えれば、東横線経由で都心に出る人も増え、東急の利用者増につながるという点がまず考えられる。
しかし、東急が狙っているのはそんな他力本願ではなかった。「直通線ができることによって、東急線と新横浜とが結ばれ、東急沿線の利便性が高まる」(東急IR担当者)。
東急東横線の車両。東横線が相鉄と相互直通すると、渋谷と新横浜が結ばれることになる(写真:HAYABUSA/PIXTA
東急沿線の利便性の拡大。これは利便性向上で沿線の価値を高めるという、東急グループの創業者・五島慶太が行っていた伝統的な戦略であり、東急の発想の原点ともいえる。
都心のターミナル駅への移動をいかに便利にするかに力を注ぐだけでなく、各路線の拠点駅同士を結ぶ路線の強化にも腐心してきた。東急の蒲田駅京浜急行電鉄京急蒲田駅を鉄道でつなぐ「蒲蒲線」構想も、わざわざ都心に出なくても羽田空港に行けるようにするという、東急沿線の利便性拡大、価値向上が目的の1つである。
西谷―日吉間には羽沢横浜国大、新横浜、新綱島の3駅の新設が予定されている。中でも利便性が高いのが新横浜駅だ。新横浜は言わずと知れた東海道新幹線の停車駅である。東京、品川、名古屋、京都、新大阪と同様にすべての新幹線が停車するため、利便性は高い。

新幹線乗車が品川から新横浜へ

新横浜に乗り入れる在来線はJR横浜線横浜市営地下鉄ブルーライン東横線の利用者が新横浜に向かう場合は菊名横浜線に乗り換える必要があったが、相鉄・東急直通線が完成すれば新横浜まで乗り換えなしで結ぶこのルートを選ぶ人も出てくるだろう。菊名乗り換えと比べて所要時間がどのくらい短縮されるかは明らかになっていないが、新横浜に1本で行ける便利さに引かれる人は少なくないはずだ。
また、これまであざみ野で市営地下鉄に乗り換えて新横浜へ向かっていた田園都市線利用者にとっては、二子玉川大井町線に乗り換えて自由が丘に向かい、そこから東横線に乗るという選択肢も生まれる。
さらに、東横線沿線の比較的都心寄りに住んでいる人の中には、相鉄・東急直通線の開業を機に東海道新幹線の利用駅を品川から新横浜に変更する人が出てくるかもしれない。
朝の時間帯であれば満員電車で汗だくになりながら大混雑する都心のターミナル駅に出る必要がなくなるのもさることながら、品川―新横浜間の新幹線代が浮くというメリットもある。品川―名古屋間は「のぞみ」(通常期の指定席)で1万1090円かかるが、新横浜―名古屋間(同)なら1万0450円。その差は640円なので、在来線運賃を考慮しても新横浜経由のほうが安上がりになりそうだ。
問題は、東横線の過密ダイヤに相鉄・東急直通線がどこまで割り込めるかだ。相鉄の東横線渋谷乗り入れが困難ではないかとされてきた根本的な原因がここで立ちはだかる。鉄道・運輸機構の事業計画によれば、相鉄の東急線方面への直通は朝ラッシュ時毎時10~14本、そのほかの時間帯は毎時4~6本が予定されている。このうちの何本が渋谷方面に直通できるだろう。
平日の午前7時台に日吉から渋谷に向かう東横線の上り列車は22本、午前8時台は24本。ここに相鉄・東急直通線の列車を追加して走らせるのは簡単ではなさそうだ。かといって、横浜方面からやってくる列車を減らして、その分だけ相鉄方面からやってくる列車を割り込ませると、横浜―日吉間の運行本数が減るため、利用者の反対は必至だ。東急としては渋谷―新横浜間の直通運転をぜひとも実現させたいが、ダイヤ編成がネックになっているというのが実態だろう。

新横浜と品川の利用者数が逆転?

蒲蒲線構想はいきなり東急線羽田空港との直通を目指すのではなく、最初の段階では京急蒲田で「いったん乗り換えていただく」(東急の髙橋和夫社長)という前提だ。この例に倣えば、渋谷―新横浜間も大量の直通列車をいきなり走らせるのではなく、当初は日吉で乗り換えてもらうというのが妥当だろう。同一ホームの対面乗り換えなら、菊名での横浜線東横線との乗り換えよりも簡単だ。
横浜駅では相鉄・東急直通線の地下駅新設工事が進む(2016年11月撮影、写真:clear_eye/PIXTA
なお、渋谷―新横浜の直通は平日の朝ラッシュ時には至難の業であっても、平日の日中や土休日であれば、ハードルが低そうだ。毎時4~6本のうち半分の2~3本が渋谷―新横浜直通になるだけでも沿線住民にとっては便利さが増すだろう。
2016年度における東海道新幹線の駅別1日乗車人員を見ると品川は3万5000人、新横浜は3万3000人。新横浜は品川を若干下回るが、相鉄・東急直通線の登場で両者の力関係が逆転する可能性もある。相鉄の都心直通はさまざまな形で沿線住民の鉄道利用に変化を与えそうだ。


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