きっぷの券面から「平成」が消えていた!進む鉄道業界の「元号離れ」


「昭和駅」を持つJR東日本の鶴見線かつて、新元号にちなんで誕生した「大正駅」「昭和駅」「平成駅」。さて、「令和駅」は誕生するだろうか? Photo:PIXTA
いよいよ新元号「令和」の時代が始まった。実は少し前から、鉄道業界では乗車券に印字する日付を元号から西暦表示に改めるなど、こっそりと「元号離れ」が進んできた。元号と鉄道の関係について考えてみた。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)

令和誕生前から進んでいた
鉄道業界の「元号離れ」

 改元の祝賀ムードを盛り上げるためとして、空前絶後の10連休となったゴールデンウイークもいよいよ最終日を迎える。おそらく政府の思惑通り、奇妙な高揚感と祝福に包まれながら「令和元年」を迎えたことだろう。推測の形で書いたのは、本稿を執筆している時点ではまだ「平成31年」だからである。
元号」とは、皇帝が空間だけでなく時間を支配するという思想に由来するという。今回、200年ぶりの天皇退位により、初めて事前予告されて行われた改元であったが、新元号の発表は改元1ヵ月前の4月1日まで引き延ばされ、システム改修など対応準備が慌ただしく行われる事態となった。
 鉄道業界はどのように改元を迎えたか。夜行列車の運行や保守作業なども含めれば、24時間365日動き続ける鉄道が連続する時間の象徴であるのに対し、「元号」とは連続する時間を人工的に切り分けようとする試みであるから、鉄道と元号の相性は良いものではない。
 システム改修を避ける目的と、訪日外国人旅客の増加など急激なグローバル化が進むことから、鉄道業界の「元号離れ」は加速している。私鉄では従来、乗車券の券面に印字する日付には西暦を用いる例が多かったが、元号を使用していたJR各社や公営地下鉄でも、改元スケジュールが決定した2017年頃から西暦に切り替えを進めたのである。
 JR東日本は2017年12月、JR西日本は2018年2月から券売機の改修とともに順次切り替えを開始し、昨年末までに対応を完了した。大阪市営地下鉄から改組された大阪メトロも、2018年4月の民営化を機に西暦に変更した。東京メトロは2011年から、都営地下鉄は2017年から変更している。

大正駅昭和駅平成駅も…
元号がついた駅名

 こうして4月30日までと5月1日以降で、何事もなく連番のきっぷが発行されることになった。元号表記だった頃は、改元後最初のきっぷや、「平成2年2月2日」など日付がゾロ目になるきっぷを収集する人もいたが、それも過去の文化となりそうだ。
 もっとも各社、ゴールデンウイークの外出も見込んで改元ビジネスには積極的だった。JR九州の「改元記念 全駅入場券セット」や「平成から令和へ!記念★乗り放題きっぷ」など、新元号や新天皇陛下の即位を記念した記念乗車券の発売や、京王電鉄の「京王ライナー 平成→令和号」や東武鉄道の臨時夜行列車「ありがとう平成・こんにちは令和号」など、改元の瞬間を車内で迎える特別列車の運行など、様々な企画が行われた。
 ちなみに元号が付く駅名は、JR西日本豊肥本線に「平成駅」、またJR東日本鶴見線に「昭和駅」、JR西日本大阪環状線島原鉄道に「大正駅」が存在する。いずれも改元後に新元号にちなんで付けられた地名、企業名に由来する駅名だ。「明治駅」はないが、明治天皇そのものが由来となる「明治神宮前駅」は存在する。中野区では来年4月から「令和小学校」が誕生するそうだが、鉄道業界でも「令和」にあやかった新駅が誕生する日は遠くないかもしれない。
 きっぷからは元号が消えて行っているが、今後も元号が残りそうなジャンルが「鉄道整備計画」だ。元号法元号の使用を義務付けていないが、公文書は慣例として元号を使用(西暦の併記は自由)することになっているため、国土交通省地方自治体、特殊法人など公的な機関が進める計画のスケジュールには原則として元号が用いられてきた。そうなると改元時に避けられないのが「存在しない暦」の出現である。

今も元号が使われる
整備新幹線の計画書

 例えば、1987(昭和62)年10月に帝都高速度交通営団(現東京メトロ)と東急電鉄が交わした地下鉄直通運転実施に関する協定書には、「列車の相互直通運転の実施は昭和70年度を目途とする」と書かれている。この協定に基づき、営団南北線赤羽岩淵駒込間を「昭和66年9月」、駒込~目黒間を「昭和70年9月」までに開業させる計画だった。
 協定締結時においては確かに存在したはずの「昭和70年」は遂に訪れず、代わりに「平成7年」となった。「協定書を交わしてから8年後」という意味では同じなのだが、日本人にとっては、「昭和」と「平成」では時代が違うという認識が生じるはず。これが「元号」の魔力である。
「平成」の計画はどうなるだろうか。今は新聞やニュースでも西暦表記が主流となり、意識する機会も少なくなったが、リニア中央新幹線名古屋開業は「平成39年」、北海道新幹線幌延伸は「平成42年」に開業するスケジュールだった。これが今では、リニアは「令和9年」、北海道新幹線は「令和12年」に開業することになっている。
 ちなみに、現在具体化している整備新幹線のうち、着工の想定が最も遅い北陸新幹線敦賀~新大阪間は、「平成43年」に着工して「平成58年」に開業する計画だ。これも換算すると「令和13年」着工「令和28年」開業になるが、ここまでくると「令和」が続いているかも分からない。
 上皇(前天皇)が天皇に即位したのは55歳、30年間務めて85歳で退位した。徳仁天皇は既に59歳。退位は一代限りの特例法とされているが、今後慣例化した場合、85歳まで26年しかないからだ。
 もしかすると、改元前に私たちがイメージしていた未来像は、令和の次の時代のことだったのかもしれない。そんな錯覚もまた、元号の魔力がもたらすものである。


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