北海道新幹線、札幌開業までの「長く短い12年」


札幌駅の一角にそびえるJRタワー北海道新幹線の看板=2019年2月(筆者撮影)
北海道新幹線が3月26日、開業3周年を迎えた。3月16日のダイヤ改正に伴って東京―新函館北斗間は最速3時間58分と待望の3時間台を実現、少しずつ本州と北海道が近づいてきた。
3周年にちなみ、木古内町新函館北斗駅が立つ北斗市では3月上旬から、トークイベントや写真展、物産フェアなどの記念イベントを開催。一方、終点・札幌では、懸案だった新幹線ホーム位置問題が決着し、駅周辺でいくつもの開発構想が本格化している。
全線開通・札幌開業は2031年春。インフラ整備の規模を考えれば、これから12年の時間は長いようで短い。新幹線がもたらす「光と影」を視野に、まちの模索が始まっている。

札幌駅の「新幹線ホーム」問題

2月下旬、新千歳空港経由で1年半ぶりに札幌市を訪れた。さっぽろ雪まつりも終わった厳寒期というのに観光客がホームにあふれ、その多くはアジア系の外国人だった。訪問の10日ほど前、函館市へ出向いた際に函館山へ登り、展望台が夜景見物の外国人観光客で埋まっていた光景を思い出した。
早速、駅の一角にそびえるJRタワー38階の展望室へ。2015年から3年にわたり道内を揺るがせた、新幹線ホーム位置問題の“現場”を確かめることにした。
四方を見渡せる展望室の東側に、旭川へ向かう函館本線の高架橋が延びる。鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)が2018年3月に公表した資料によると、この高架の南側に並行して、長さ270mほど、2面2線の北海道新幹線ホームが建設される。
在来線ホームとは接することなく、コンコースと改札が設けられる乗り換え跨線橋で行き来する。新幹線ホームは西端が駅ビルに接し、東側は創成川を越えて2ブロックにわたり延びることになる。

JR北海道は2012年の工事認可当時、在来線ホームの南端に当たる1、2番線を改装して新幹線を乗り入れる一方、11番ホームを新設して北海道新幹線の全線開通を迎える計画だった。
しかし、2015年、在来線の運用が困難になるとの理由から、JR北海道が新幹線ホームの設置場所として、新たに駅舎の西側、東側、さらに地下を検討していることが明らかになった。
駅周辺整備やまちづくりへの影響も大きいため、国土交通省と鉄道・運輸機構、北海道、そして札幌市を交えて議論が錯綜、一時はこの経緯自体が市民らの不信を招いた。それでも2018年3月にようやく、東側案よりさらに東側へホームを移す現行案(大東案)に落ち着いた。
札幌駅自体の大きさのせいか、上空から見下ろす限り、構造物としての違和感はさほどない。グランクラスグリーン車の位置には、専用エレベーターを設置し、地上には貴賓室なども設ける構想があるという。
とはいえ、これらの車両に乗った乗客が在来線に乗り換える場合は、新幹線1編成分を歩くことになり、特に荷物が多い人や高齢者には負担が大きそうだ。同一ホーム乗り換えの新潟駅や中2階でつながる金沢駅に比べると、不便さは否めず、賛否の声が上がっている。

駅周辺と交通網の整備

北海道新幹線ホームに接する市街地は現在、駅の真横という立地にもかかわらず青空駐車場になっている。区画でいえば「北5西1」街区から「北5東1」街区だ。この一帯は札幌市が2003年に旧国鉄清算事業団から買い上げた。

札幌駅南口に立つ大丸札幌店(左)、JRタワー(中央奥)、札幌エスタ(右)=2019年2月(筆者撮影)

しかし、再利用計画が宙に浮いたため、長く駐車場として暫定利用してきたという。市は2016年、現在はバスターミナルを併設する「札幌エスタ」が立っている「北5西2」街区と、駐車場になっている「北5西1」街区を一体化して再開発し、JRタワーと並ぶ170m級の高層ビルを建設する構想を打ち出した。
その後、新幹線ホーム問題が決着をみたため、市は2018年9月に「札幌駅交流拠点まちづくり計画」を策定し、札幌駅と新幹線ホームを核にした市街地整備構想を明示した。
一帯には「国際水準のホテル」やバスターミナルを整備する方針がうたわれている。札幌駅から北東へ約300mの「北8西1」街区には50階建てのタワーマンションの建設構想があり、東北東へ約500mの「北6東3」街区と周辺ではオフィスビルなどの工事が始まるなど、いくつもの大型プロジェクトが進む。
約4km離れた札樽自動車道・札幌北インターチェンジと札幌駅の行き来を改善する「札幌都心アクセス道路」整備や、大通バスセンターの廃止・統合など、交通面の検討も活発化している。
中でも、市民の注目を浴びてきたのが、札幌駅南口広場に隣接する「北4西3」街区だ。この区画は、かつて道内初の百貨店として開業した「五番舘」が建ち、その後は札幌西武が営業していた。2009年9月に札幌西武が閉店した後、曲折を経て跡地は更地となり、駅前にぽっかりと空いた空間はまちのイメージにも影を落としていた。

「北4西3」街区の札幌西武跡地。奥はJRタワー=2019年2月(筆者撮影)

しかし、2018年6月、この跡地を含む街区一帯の再開発に向けて準備組合が発足したことを北海道新聞が報じた。市は2019年度予算にこれらの再開発への補助事業を計上するなど、後押しを強めている。
さまざまなプランを思い起こしながら市街地を眺めるうち、西郊の手稲山をバックに北海道新幹線が札幌駅へ走り込んでくる日は、それほど遠くない、と実感がわいてきた。
新千歳空港悪天候などで閉鎖になった際、北海道新幹線経由で北海道―本州を往来する動線も定着しつつある。
札幌市中心部で夕食を取った折、隣り合わせた地元の20代の若者は「新幹線はおじさんたちしか関心を向けない乗りものではないか」と建設の意義に懐疑的な言葉を発してはいたが、「それでも、新幹線のある暮らしがどんなものか、自分は知りたい」と語っていた。札幌市内でも、北海道新幹線の存在感は次第に高まっているようだ。

市民感覚ではまだ遠い「開業」

とはいえ、市民生活の感覚でいえば、「12年後」は遠い未来だ。また、北海道新聞は2018年8月、全道郵送世論調査の結果を掲載し、北海道新幹線の全線開通を「期待できる」と評価した回答者が28%止まりだったことを伝えた。
札幌開業に向けて今から、何にどう備えればよいのか。それを探り、考えるのが、今回の札幌訪問の目的だった。北海道新幹線建設促進期成会の会合に招かれ、自治体や商工会議所の方々に1時間ほど講演し、意見交換した。
筆者自身にとっても「見えない未来」だけに、歯切れの良い解説は難しかった。それでも、一部のファンがネットで公開し始めているように、「想定時刻表によるシミュレーション」を試してみては、と提案した。
また、例えば金沢が開業10年前に「鼓門」など駅前を整備していた事例や、飯山が10年がかりで駅周辺整備を進めてきた事例を参考に、人づくり、組織づくり、文化づくりなど「10年かけなければできないこと」を検討してはどうかと提起した。
新小樽駅ができる小樽市はこの連載でも紹介した久留米市の事例(2018年12月12日付記事「新幹線の途中駅、久留米のタフな生き残り策」
が、他の途中駅には飯山駅の事例(2015年12月2日付記事「北陸新幹線『かがやき』が通過する駅の模索」)が参考になる可能性があることにも言及した。

それでも、北海道新幹線開業までには、予測困難な破壊的イノベーションがいくつか起きるだろう。AIや自動運転、ロボットなどの導入を視野に入れる一方、団塊の世代後期高齢者になる2025年ごろまでに、旅行や観光の姿が大きく変わる状況も想定しておかなければならない。何より、人口減少下での並行在来線対策や、沿線各地の地域づくり・駅づくりが控えている。
出席者からは「ここにいる人たちは異動が付きもので、12年後に向けて何らかの責任ある対応やコメントができる立場にない」という発言があった。
整備新幹線の開業地では往々にして、組織内や組織同士の「縦割り」、機械的な異動による「輪切り」など、いくつもの不具合が浮き彫りになる。それをどう乗り越えていくか。そもそも、行政・経済界と市民の時間感覚には大きな差異がある。
筆者がこれまでの開業を調査してきた感覚では、沿線の住民や地域社会が「開業」を実感できるのは、早くても開業の2年前だ。しかし、インフラ整備だけでなく、ソフト面でも、この時期は準備の総仕上げというべき段階に当たる。この感覚の差をどう埋めていくか。

北海道新幹線学」を提案

筆者は数年前、「新幹線学」というキーワードを起点として、整備新幹線や地域の対応を論じることを考えた。2018年度には愛知大学の助成を得て、「新幹線学」の構築に関する基礎的な共同研究を展開することができた。これらの経験を踏まえて、今回の講演では、北海道新幹線がもたらす「光と影」を検討しながら、北海道の将来像を探っていく枠組みとして「北海道新幹線学」という視点を提案した。

開業3年を迎えた北海道新幹線新函館北斗駅(画面中央)=2019年2月(筆者撮影)

3月16日には青函トンネルを挟む北海道新幹線・貨物列車の共用区間の上限速度が時速140kmから160kmに引き上げられ、東京―新函館北斗間の最速が4時間を切った。
報道によればすでに、180km化も視野に入っているという。また、長くボトルネックとなってきた東京―大宮間の速度は110kmから130kmへスピードアップされる。
JR東日本は360kmの営業運転に向けて、試験車両「ALFA-X」を開発、5月以降に走行が始まる予定だ。盛岡以北の「整備新幹線区間の260kmの上限変更も取りざたされている。
一方で、JR北海道の経営の行方は見定めがたく、道路と鉄路の役割分担もまだ見えない。北海道新聞の報道によれば、共用走行区間において、新幹線の高速化を実現するため、物流を海上輸送に切り替えたり、新幹線車両を使ったりする手法を国土交通省が検討しているという。JR貨物の将来像も不透明になりつつある。
「札幌市民で新幹線に乗ったことがない人は珍しくない。自分も社会人になって初めて乗った」と地元在住の友人は打ち明ける。道民は新幹線になじみがないだけか、それとも札幌や北海道には本当に効果が薄いのか。北海道新幹線は札幌の街をどう変えるのか。さまざまな問いかけと営みが、「12年後」に向けて始まりつつある。


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