上越新幹線「新潟空港乗り入れ」は実現するか 地元で高まる「空港延伸」「羽越新幹線」の期待


上越新幹線の「新潟空港延伸構想」への期待が地元で高まっている(写真:Mugimaki / PIXTA
新潟県知事選の投開票日を8日後に控えた6月2日、新潟市内のホテルで「上越新幹線新潟空港乗り入れを含む新潟新ビジョン実現を目指す100人の経済人の集い」が開催された。

上越新幹線の「新潟空港延伸構想」

この集会では、久間章生防衛大臣が「環日本海ハブ空港。そして世界を結ぶ新潟空港。~その可能性と役割~」と題して講演。久間氏は「朝鮮半島やロシアとの交流を拡大するうえで、新潟空港は重要な拠点。上越新幹線新潟空港まで延伸させるとともに、東京―大宮間のスピードアップを図ることで東京との間の移動時間を短縮させることが重要だ」と述べた。
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最後に「上越新幹線新潟空港延伸を実現するうえでの新知事の決断に期待している」と締めくくると、会場は大きな拍手に包まれた。講演終了後の情報交換会には、賛成派の花角英世候補(現・新潟県知事)も参加した。
花角知事は、訪日外国人の誘客に向けた交通ネットワークの充実策として、新潟空港へのLCC(格安航空)新規国際路線の開設をはじめとする航空路線の充実や、新潟空港の利便性向上につながる軌道系アクセス整備に向けた機運を高める考えをすでに示している。石崎徹衆議院議員は「賛成派の新知事誕生は、上越新幹線新潟空港延伸実現に向けた大きな弾みになる」と期待を語る。
現状、新潟空港へつながる鉄道はなく、新潟駅新潟空港を結ぶ公共交通としてはタクシーを除けば、所要時間約25分・運賃410円のリムジンバスが唯一の手段だ。
一方、新潟県は「平成28年新潟空港アクセス調査業務委託 報告書」の中で、上越新幹線新潟空港延伸のための整備費は最大で422億円、幹線運賃240円+特急料金200円の設定の下で約176万人に増えることが採算確保の目安であると試算しているが、2017年度の同空港利用者は102万2000人であった。
実現のハードルは低くないとの意見もある中で、石崎議員は「『日本で唯一の新幹線乗り入れ空港』を手にすることで、航空と新幹線の両方の利用増を図ることができる」と反論したうえで、「新幹線の線路は東新潟駅付近まで続いている。あと数キロメートル延伸するだけで新潟空港までつなげることができる」と強調する。

上越新幹線新潟空港延伸の主なメリットは次の3点に集約することができる。
1つ目のメリットは、上越新幹線沿線から新潟空港への高速鉄道によるダイレクトアクセスが実現する点だ。羽田空港や成田空港と距離が離れている群馬県も、上越新幹線新潟空港延伸を大きなメリットが期待できるプロジェクトであるととらえている。
たとえば、高崎駅から羽田空港への鉄道アクセスでは、新幹線・在来線利用とも途中で必ず乗り換えが必要であり、また東日本旅客鉄道JR東日本)による羽田空港アクセス線が開業して直通列車が利用できるようになったとしても所要時間は約2時間は要すると予想される。成田空港へはさらに時間を要するのが現状だ。
2つ目は、新潟空港へのアクセスが向上すれば、新潟―関西国際空港間のピーチ航空の1往復にとどまっているLCCの誘致を促進し、新潟県来訪者の増加を図る道筋も見えてくることである。
新潟市内で開かれた集会で講演する久間章生防衛大臣(筆者撮影)
3つ目のメリットとして、鉄道アクセスがない新潟空港周辺と新潟駅の間のアクセス向上により、空港利用者のみならず、周辺地域の人たちの生活路線としての利用も期待できる点だ。ただし、生活路線としての利用を促進するためには、西日本旅客鉄道JR西日本)の博多南線と同様に、利用しやすい特急料金の設定や途中駅の設置がカギを握る。

富山と青森を結ぶ「羽越新幹線構想」も

一方、上越新幹線にはもう1つ巨大プロジェクトの構想がある。「羽越新幹線構想」だ。富山市青森市を、新潟市秋田市など日本海側を経由して結ぶ新幹線の基本計画路線であり、秋田市福島市とを結ぶ奥羽新幹線と接続する。
羽越新幹線については、花角知事が今年6月の新潟県議会定例会で、日本海国土軸の形成を図るため、日本海側を縦断し、上中下越を一体的に結ぶ羽越新幹線計画の実現に向けて取り組みを進めることを表明したほか、山形県や県内の市町村と経済団体などで構成する「山形県奥羽・羽越新幹線整備実現同盟」(会長・吉村美栄子山形県知事)が秋田県と連携して、実現に向けた活動を活発化させている。

同実現同盟ホームページによると、フル規格による「奥羽・羽越新幹線」開業効果として、所要時間の短縮、交流人口の拡大、地域産業の活性化、安全・安定輸送の4点を挙げている。
特に、羽越新幹線開業効果として、東京―酒田間が2時間40分と、現行の上越新幹線+特急「いなほ」乗り継ぎの場合よりも1時間15分短縮されることを挙げている。なお、4月15日より新潟駅上越新幹線「いなほ」の対面乗り換えが開始され、乗り換え抵抗の軽減は実現している。
2015年3月14日の北陸新幹線長野駅金沢駅間開業により金沢への直通列車がなくなった新潟県にとっては、羽越新幹線開業は北陸新幹線との接続を通じて、将来的には富山・金沢・福井・関西方面への直通列車の復活につながる。

北陸新幹線の金沢延伸で環境が変化

そして、北陸新幹線金沢延伸は、上越新幹線を取り巻く状況も大きく変えた。大宮駅―高崎駅間の2015年度乗車人員は前年度比15.4%増の10万4922人となり、その後も順調に増加して2017年度は10万6539人に達した。
北陸新幹線金沢延伸による根元効果が端的に表れた高崎駅以南とは対照的に、上越新幹線高崎駅以北の「枝線化」を懸念する意見も見られる。
実際に2015年度の高崎駅越後湯沢駅間の乗車人員は前年度比19.5%減の2万9133人に落ち込んだ。2017年度は3万0179人まで回復したものの、北陸新幹線金沢延伸前の水準には及ばない。北陸への短絡ルートとして機能していた越後湯沢駅から北越急行線を経由するルートがその使命を終えたことが大きな要因だ。また、越後湯沢駅新潟駅間の2015年度乗車人員は前年度比1.2%増の2万1105人で、その後も微増を続け、2017年度は2万2020人となった。
北陸新幹線沿線への観光利用・ビジネス利用のほか、都内への通勤・通学利用も多く当面は順調な利用が見込まれる高崎駅以南は別として、同駅以北は沿線人口減少や1都3県への人口流出などにより乗車人員が減る可能性がある。

人口流出に歯止めをかけようと、沿線自治体も動き出した。新潟県湯沢町は移住定住促進策として、上越新幹線の通勤定期券を購入し、越後湯沢駅から通勤する町民に対して、一定の要件を満たすことを条件として、定期券購入費用から通勤手当等を控除した額の2分の1に相当する額(1月上限5万円)を最大10年間補助する制度を設けた。
JR東日本と関係自治体が連携して上越新幹線の利用促進を図る必要性は今後も減ることはないが、沿線人口の減少などにより打つ手は限られていることも確かだ。

空港延伸と羽越新幹線、なぜ必要?

上越新幹線新潟空港延伸と羽越新幹線の実現への期待感の高まりは、同新幹線を取り巻く厳しい環境への危機感の裏返しでもある。
石崎議員は「3つの観点から上越新幹線新潟空港延伸と羽越新幹線が必要だ」と前置きし、「1つ目は、首都圏での大災害時における首都機能の補完や、悪天候等の首都圏空港着陸不能時の代替空港の役割強化と国土強靭化のためのネットワーク強化の観点。2つ目は、2020年の訪日外国人4000万人の目標実現に向けてキャパシティの限界を迎えつつある羽田・成田両空港の混雑緩和機能の強化の観点。そして、3つ目は、2030年冬季オリンピックパラリンピックの開催が見込まれる新潟へのアクセス向上の観点。これら3つの観点から2つのプロジェクトの実現が必要だ」と説明する。
さらに、「スノーリゾートとしての発展が期待される新潟の一層の活性化や観光振興につながるだけでなく、群馬・埼玉県をはじめ、近隣県民にも新潟空港の利用の恩恵を見込むことができる」(石崎議員)ことも強調する。
新潟市中心部を流れる信濃川に架かる萬代橋(筆者撮影)
折しも、9月26日、三越伊勢丹ホールディングスは「三越新潟店」を2020年3月に閉店すると発表した。同店が立地する新潟市古町地区では商業施設の撤退が相次いでいるが、三越の閉店が同地区の衰退にさらに拍車をかけることが懸念されている。
新潟県の来訪者増加の行方を左右する新潟市中心部の再生のためにも、上越新幹線の2つの巨大プロジェクトに期待がかかるが、巨額の整備費の財源をどのように捻出し、採算性をクリアするのかは大きな課題として残る。
9月28日に投開票された新潟市長選では、羽越新幹線の整備と上越新幹線新潟空港延伸を公約に掲げ、自民党の支持を受けた中原八一氏が当選した。新潟県知事選に続いて、賛成派の新潟市長の誕生で、両プロジェクトに改めて注目が集まりそうだ。
実現へのカギは、関係自治体と鉄道事業者をはじめとするステークホルダーが、財源や採算性の問題を超えるメリットを見いだして、ともに前向きに取り組めるかにかかっている。



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