TX、利便性向上のカギ握る2大プロジェクト 東京駅や茨城空港への延伸構想、実現性は?



つくばエクスプレス(TX)は東京の秋葉原駅茨城県つくば市つくば駅を結んでいる(kawamura_lucy/PIXTA

ある平日の夕方、つくばエクスプレス(TX)南流山駅には列車到着の度に、家路へと急ぐ人たちが次々とホームに降り立った。その多くがJR武蔵野線改札口へ向かう。当駅は快速・区間快速・普通の全旅客列車が停車し、JRへの乗り換え利用に便宜を図っている。
TX開業は、埼玉県八潮市茨城県つくば市などの鉄道空白地帯を含む沿線地域の開発を促進した。そしてTXは、新たに既存鉄道路線との接続点に乗り換え駅として流山おおたかの森駅東武野田線・千葉県流山市)や守谷駅関東鉄道常総線茨城県守谷市)などを設置したことで、JR常磐線の旅客流動に大きな変化をもたらした。
TXの運行主体は首都圏新都市鉄道、正式路線名は常磐新線で、その名が示す通り、混雑率が悪化していた日本国有鉄道国鉄常磐線を補完する路線として、1978年に茨城県が提起した「第2常磐線構想」を端緒とする。
その後国鉄分割民営化を経て、整備主体となる第三セクター東日本旅客鉄道JR東日本)が参加したうえで、運行を担う予定で検討が進められたが、結局、JR東日本は整備主体への参加を見送ることとなり、TXと競合関係となることが確定した。
TX開業後、常磐線の混雑緩和は一定程度実現したものの、JRにとっては常磐線の運輸収入減少の影響を受けることとなったのである。

TXの利用客数は右肩上がり

JR常磐線からTXへの利用経路のシフトの傾向はデータで裏付けられている。国土交通省が作成した「鉄道ネットワーク整備の効果分析」によると、東武野田線江戸川台駅初石駅豊四季駅―JR神田駅・品川駅間の定期券の利用経路は、TX開業前の2000年はJR常磐線柏駅経由が100%であったが、TX開業後の2005年度は59%に減少し、さらに2010年度には33%にまで落ち込んだ。
一方、TX流山おおたかの森駅経由は2005年度に41%を記録し、さらに2010年度には67%にまで伸ばした。
TXの乗車人員は、右肩上がりで推移している。2018年6月に首都圏新都市鉄道が会社発足以来初めて公表した『つくばエクスプレス 中期経営計画(2018~2020年度)』では、2020年度の1日平均乗車人員は、2017年度比8%増の40万人の見通しが示されているが、徐々に成熟期を迎えることによって人口の伸びが鈍化し、近い将来にはピークに達すると予想する。

首都圏新都市鉄道はTXの未来図をどのように描いていくのだろうか。同社の小泉誠参与兼経営企画部長に話を聞いた。
――最優先の経営課題は何か。
「開業からまだ13年だが、沿線開発の進展で乗客は右肩上がりで増えてきている。さまざまな経営課題があるが、現時点での重要な経営課題は『混雑緩和のためにできることは何か』と『安全運行の継続を引き続きどのように図っていくか』であると考えている」
「現在7編成に残っているクロスシートをすべてロングシートに変更するほか、2020年春には、新型車両TX-3000系を投入し、朝ラッシュ1時間当たり22本から25本へ増発することとしており、これにより相当程度混雑の緩和が図られると見込んでいる。また、車両や設備の更新などを着実に実行し、鉄道輸送の最大の使命である安全性を高めてまいりたいと考えている」
――中期経営計画では8両編成化事業の検討を行うともされているが、混雑緩和の実現に向けたさらなる方策はあるか。
「利用者や沿線自治体から多くの要望が寄せられており、8両編成化の可能性などについて検討をしていく必要があると考えている。一方、当社には路線建設債務がまだ6000億弱残っており、毎年度約200億円の返済を続けているため、財務の健全性を確保しつつ、混雑緩和のための施策の検討を進めていくことが重要であると考えている」

有料着席サービス導入の是非は?

――追加料金を支払って着席したい利用者もいるのでないか。たとえば、東京急行電鉄では大井町線急行の全号車のうち1両のみクロス・ロング転換タイプの車両を組み入れて座席指定サービスを開始したが、貴社ではどのように考えられるか。
「利用者の方や沿線自治体からは混雑緩和に向けた取り組みへのご要望の方が圧倒的に多い。クロス・ロング転換車両に即して言えば、座席数と立席空間の両方の減少につながり、混雑悪化を招きかねない面もあると思われる。現状ではすべての車両をロングシートに変更することなどで、混雑緩和を図ることを最優先して行っていく必要性が高いと考えている」
――TXのさらなる魅力向上や、企業価値の向上に向けた展望は。
「当社は開業以来、地域の方々に支えられ、また当社が地域の発展に少しでも貢献できるよう歩んできた。これまでも沿線自治体、企業、大学のまちづくり活動へ参加するなど連携を深めてきた。また、沿線情報の発信にも努めてきた。今後も地域密着の鉄道を目指して、地域に貢献してまいりたい。そのことが当社の魅力向上や企業価値向上につながればと考えている」

地域密着の鉄道を目指す取り組みは確かに重要である。しかし、TXの魅力を高める方策はほかにないだろうか。
TXの魅力向上の最良の策としては、東京駅へのダイレクトアクセス実現を挙げることができる。建設費抑制のため、東京都内のTXターミナル駅秋葉原駅としたため、新幹線が発着する東京駅へは北千住駅または秋葉原駅などでの乗り換えが必要である。
ライバルのJRは2015年3月14日に、常磐線快速・特急の品川駅までの直通運転を開始した。TXと常磐線の「中間地点」の住民にとって、東京駅方面へ出掛ける際の選択肢として常磐線が有力な候補となった。
JR東日本「路線別ご利用状況(2013~2017年度)」によると、常磐線日暮里駅―取手駅間の1日当たり平均通過人員は2014年度の34万9562人から2017年度は36万1889人へ増加し、品川駅乗り入れが一定の効果を上げていることがうかがえる。

東京駅延伸はTX沿線自治体の悲願

一方、TX沿線自治体にとってもTXの東京駅延伸は悲願である。流山市柏市守谷市つくば市などの沿線自治体は、2006年以降、首都圏新都市鉄道のほか、超党派の国会議員で組織する「つくばエクスプレス利用・建設促進議員連盟」などへ継続的に要望を続けている。
2016年に公表された交通政策審議会答申『東京圏における今後の都市鉄道のあり方について』において「国際競争力の強化に資する鉄道ネットワークのプロジェクト」として「常磐新線の延伸(秋葉原ー東京(新東京))」と「都心部・臨海地域地下鉄構想の新設及び同構想と常磐新線延伸の一体整備(臨海部~銀座~東京)」が盛り込まれた。
首都圏新都市鉄道の中期経営計画の中の「交通政策審議会答申プロジェクトへの対応」においても、これら新線構想について国や関係自治体などとともに検討、情報収集に努める旨が記載されている。
特に、TX沿線自治体にとっては、品川駅乗り入れで利便性を高めた常磐線沿線自治体との定住人口獲得競争上、TX東京駅延伸の実現の重要性が高まりそうだ。

そして、TXをめぐってはもう1つの巨大プロジェクト構想が茨城県内において浮上した。茨城空港への延伸構想である。同空港がある小美玉市と周辺の7市議会が2018年5月に「TX茨城空港延伸議会期成同盟会」を設立した。
現在、同空港と都内を直結する唯一の公共交通機関として、高速バスが運行されている。航空機利用者は「ワンコイン」の500円で利用できる(航空機非利用者は1200円)。
同期成同盟会の『設立趣意書』には、TXを茨城空港まで直結することが茨城空港を首都圏第3の空港として発展させる最善策になること、そして人口増・経済効果などの波及効果は計り知れないと記されている。
茨城空港応援大使を務める伊王野求美さんは「鉄道が乗り入れることで、空港だけでなく、地域も活性化する。ぜひ実現してほしい」と熱望する。

茨城空港延伸構想に疑問の声も

一方、TX茨城空港延伸について、懐疑的な意見もある。茨城県内のある自治体の関係者は「人口減少や高齢化が見込まれる地域では老朽化が深刻な生活基盤整備、医療福祉の予算を確保するのが先決。TXの茨城空港延伸は順番が違うのではないか」と疑問視する。
TX延伸構想を沿線自治体が提起する背景には、今後予想される人口減への危機感があるからだ。首都圏新都市鉄道は、寄せられる要望に対してどのような対応を打ち出していくのか。
TXにとって、沿線自治体や利用者などのステークホルダーとの関係に目配りしつつ、東京駅延伸実現に向けた検討を含むTX魅力向上に向けたシナリオを描くことがますます重要になる。それが、持続的な乗車人員確保を通じた企業価値向上につながるだろう。


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