「満員電車」あと何本増発すれば緩和できる?東海道線や中央線、東西線…主要路線を検証


東京圏主要路線の平均混雑率は163%。何本増発すれば120%まで下がる?(撮影:今井康一)
小池百合子都知事が就任して2年が経過した。小池知事はさまざまな「ゼロ化」公約を掲げて都政に取り組んでおり、その中の1つに「満員電車ゼロ」がある。これは、筆者が学生時代にインターンをしていた鉄道コンサルティング会社「ライトレール」の阿部等社長による案が原案となっている。
だが、今までのところ抜本的な解決を図るような政策は打ち出されていない。そもそも、満員電車ゼロを達成するのにあと何本列車を走らせる必要があるのか、そのためにはどのような設備の新設・増設が必要なのか、といった視点での議論はなされていない。

どうすれば目標値に届くのか?

そんな中、7月に国土交通省から最新の混雑率データが出された。そこで、これを基に「満員電車ゼロ」の状態まであとどのくらいの輸送力が不足しているのかを算出してみた。
ここでいう満員電車ゼロとは、定員乗車、つまり混雑率100%のことを指すものとする。そもそも法令上は乗り物には定員以上の人数を乗せることを良しとはしていない。一方、国土交通省が掲げる目標値は150%である。
筆者の個人的見解としては、国交省の数値に他線での輸送障害発生時に迂回客を運ぶ余裕を考慮して120%程度を目標にするのがよいのではないかと思う。いろいろな考え方があるが、ここでは定員の100%と、筆者の見解に基づく120%とで検討した。
国交省のデータでは、東京圏主要31区間すべての最混雑時間帯の輸送力は99万人。これに対して輸送人員は161.5万人であった。なんと、主要31区間だけでも62.5万人分もの輸送力が不足していることがわかる。
それでは、各路線ごとに見ていこう。

小田急
小田急は今春完成した複々線での1時間最大36本運転により、すでに混雑率は151%まで緩和されている。来年からは新宿発着の各駅停車10両化が始まり、全列車が10両化されれば国交省目標の150%を切ることができる。もし100%にするならば53本の運転が必要で、あと17本足りない。そこまでしなくても、120%まで下がればいいということであれば必要な本数は44本で、あと8本増やせばよい。増やすとすれば、複々線化後も混雑が集中する快速急行の増発に期待したい。
東海道線は最混雑区間の川崎―品川間で1時間最大19本の運転。同区間の混雑率は187%だ。仮に100%を目指すならあと17本、120%なら11本の増発が必要だが、どちらの目標でも東海道線をもう1本造るくらいしないと実現できないだろう。
一方、平塚―戸塚間では1時間に最大22本が走っている。このうち3本は湘南新宿ラインの電車で、戸塚から横須賀線の線路へ入り、湘南新宿ラインへ抜けた分の補填はされていない。そこで、湘南新宿ラインへ抜けた分の3本を横浜始発で増やしたらどうだろう。横浜から東京までの短距離でグリーン車を利用する人は少ないだろうから、全車普通車の列車でよい。
常磐線快速の車両(E231系)。上野東京ラインで品川駅まで乗り入れる(撮影:尾形文繁)
たとえば、上野東京ラインで品川まで乗り入れている常磐線快速(緑色のライン)の車両を早朝に横浜まで走らせ、同駅始発の折り返しとして運転すれば、川崎―品川間の混雑率は計算上157%まで下がる。さらに相鉄・JR直通線が開業(2019年度予定)すれば横浜を経由する旅客が幾分か減るので、150%を切れるかもしれない。

快速に乗客が集中する中央線

JR中央線快速
中央線快速は現状1時間最大30本運転で、混雑率は184%である。中央線そのものは複々線での運転で輸送力はかなりあるが、並行する各駅停車の混雑率は97%。乗客が快速に集中しすぎており、かなりアンバランスだ。
各駅停車へ誘導するために、たとえば朝の快速はすべて吉祥寺から中野までノンストップにするといったことを考えてもよさそうだ。しかし旧国鉄は、中央線の複々線化時に地元への見返りとして平日は杉並区内のすべての駅に快速を停めるという約束をしてしまったがために、今でも快速は中野まで各駅停車という状況が続いている。

ちなみに、ある関係者に以前聞いた話では、中央線の快速線は1時間最大36本まで増発可能な設計になっているという。仮に36本運転が実現すると153%まで混雑が緩和される。だが、増備した車両の置き場所の問題などさまざまな理由により実現できていないのだそうだ。
増発が難しければ、2023年度末に予定されているグリーン車2両の増結とあわせて15両での運転にできないだろうか。その場合グリーン車2両を抜いた実質13両分の輸送力での計算になるが、国交省目標の150%であれば28本の運転でクリアできそうだ。

JR総武線各駅停車
日本で2番目に高い混雑率を記録するJR総武線各駅停車の錦糸町―両国間。現状は1時間最大26本の運転で混雑率197%だ。100%まで下げるには今の倍の本数が必要で、120%でもあと17本の増発が必要である。150%をクリアするためにも8本増の34本の運転が必要だ。せめて30本までは頑張ってほしいが、それでも171%と高いままだ。
理想は錦糸町秋葉原間の線路を増やすことだが、この区間は密集した雑居ビルの谷間を走っている状況でとてもそんなことはできないだろう。すると列車両数を増やすしかない。
鉄道評論家の佐藤信之氏によれば、総武線各駅停車(千葉ー秋葉原間)の各駅のホームは11両編成分の長さがあるという。仮にすべて11両にして1時間最大30本にできれば混雑率は157%まで下がる。さらに、埼京線に導入されている無線式信号システムATACSを導入すれば、現在より列車間隔を詰めることができるという。これを導入できれば1時間最大30本の壁を突破し、さらに何本か増発できるかもしれない。そこまですれば150%ならクリアできそうだ。

実は複々線化計画があった?

東京メトロ東西線は1時間最大27本運転で混雑率199%、なんと定員の2倍を乗せて走り、混雑率日本一である。目下、列車増発を可能にするため、南砂町駅のホーム増設や九段下―飯田橋間の配線改良工事が実施されている。これによって幾分か列車増発が可能になるらしいのだが、具体的な増発可能本数は公表されていない。
そんな東西線であるが、実は営団時代には東西線複々線化計画が存在していたという話がある。私が以前、小竹向原駅付近のトンネル・線路増設工事について調査していたときに関係者に聞いた内容だが、かつて東西線西船橋方面から大手町までの複々線化計画があったという。この計画では、都心部区間は現在の線路の直下に新線を建設し、有楽町線副都心線の千川・要町駅のような重層構造にすることを考えていたそうである。
現在の東西線は定員の2倍を運んでいるので、混雑率100%にするには今の倍の本数が必要だ。120%なら18本増の45本運転。これは複々線化が実現していれば可能だったであろう数字である。

目黒線国交省の「主要31区間」には入っていないが、本稿ではあえて取り上げることとした。
現在は6両編成で1時間最大24本の運転により混雑率171%となっている東急目黒線は、今後8両編成へと車両を増やすことになっている。本数も増やすつもりがあるかはわからないが、8両編成で1時間最大31本にすれば混雑率100%が実現する。
だがこれは「今後も今の利用者数のままなら」の話だ。8両編成化の計画は2022年の相鉄との直通開始を見据えてのものである。鉄道・運輸機構によると相鉄・東急直通線と相鉄・JR直通線の利用者数は1日計26万人に上ると予測されており、仮に上りが半分の13万人として、このうちの2割が朝に目黒線を経由して都心まで向かうとすれば、8両編成で1時間に30本の運転であったとしても混雑率は175%となり、今よりも悪化する。
実際には目黒線に流れる利用者数がこれより多いか少ないかわからないが、本当に8両・複線運転で足りるのだろうか。目黒線利用者の皆様は相鉄との直通運転開始の日を覚悟して迎えることとなるだろう。

列車の詰まりを減らす工夫

京王線は1時間最大27本運転で混雑率167%となっている。100%へ下げるにはあと18本、120%を目指すならあと11本の増発が必要だ。
京王は、一部の駅ではユニークな取り組みによって列車の詰まりを少しでも減らす取り組みがなされている。
たとえば急行と各停の待ち合わせの際、通常は本線に急行、待避線に各駅停車が入線するが、これだと急行の発車後も各停が駅から抜けるまで次の各停が入れず、後続の急行も詰まる。
そこで、この対策として待避線の各停が発車すると同時に本線に後続の各停を入れ、その後空いた待避線に急行を入れる。
つまり本線に急行を入れるパターンと待避線に急行を入れるパターンを交互に繰り返すことによって、待避駅手前での列車渋滞を防止しているというわけだ。

また、京王は現在、笹塚―仙川間の高架化事業を進めている。この際、明大前駅千歳烏山駅は線路を4線に増やす計画だ。これが実現すると笹塚―つつじヶ丘間は急行等の追い抜きがない駅と追い抜きが可能な駅が交互に配置されるようになる。実はこのような設計にすると、複線で走らせられる本数の限界を大幅に引き上げられる可能性がある。
たとえば道路の場合、信号も踏切もなければ片側1車線につき1時間で普通乗用車が最大2000台走行できるとされるが、踏切があると一時停止が必要なため、1度も列車が来なかったとしても1時間に1000台まで走行可能台数が減ってしまうと言われている。そのため高速道路では、容量の低下を防ぐために停車や超低速での通過が多い料金所部分の車線数を手厚くしている。これによって本来の容量である1時間2000台を維持しているわけである。
京王の考え方もこれと似ており、急行停車駅、つまり朝の時間帯にすべての列車が停まる駅の線路を増やすことにしている。
実は、前述の「急行等の追い抜きがない駅と追い抜きが可能な駅を交互に配置」し、「急行停車駅は線路の数が多くなる駅のみ」としたうえで「本線に急行を入れる待避パターンと待避線に急行を入れる待避パターンを交互に繰り返す」「急行系列車と各駅停車を交互に運転する」という4点をセットで行うと、理論上は複線のままで1時間に最大40本の運転が可能になる。こうすると混雑率は113%まで下がり、かなり快適な通勤が実現することは間違いないだろう。さて、はたしてこのようなダイヤが実現するか。
多数の列車が走る朝の京王線。一部の駅では列車の詰まりを防ぐための工夫も見られる(写真:tarousite / PIXTA

120%達成はなかなか大変だ

ここまで、首都圏の主要通勤路線での混雑緩和にはあとどれくらいの輸送力が必要なのか、その輸送力を確保するにはどのようなハードルがあり、どこまでは実現できそうかを見てきた。
それぞれの路線・区間によって事情や考えられる対策は異なるが、ほとんどは複々線化などの大規模な投資をしないと120%レベルでも達成は難しそうである。国交省が掲げる150%でも苦しい路線もある。そんな中、もしかしたら上記の例のように、複線では1時間最大30本台前半が限界という壁を乗り越えて、複線のままで大増発が実現する路線があるかもしれない。


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