大地震に電車の中で遭ったら?知っておくべき乗客の心得


地震発生時にぎゅう詰めの満員電車に乗っていたら…?線路や駅の耐震性能の現状や、何に気をつけ、どう行動すべきかなど、大地震発生時の鉄道について知っておきたい情報をまとめた。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)

地震時に電車に乗っていたら…?
気になる鉄道の耐震性

大阪北部地震で係員に誘導されて電車から避難する人々大阪北部地震で係員に誘導され、電車から降りる人々。早く逃げたいからといって、勝手に車外に出る人があらわれると、避難完了や運転再開がさらに遅くなるから、絶対に避けるべきだ 写真:毎日新聞社/アフロ
 18日朝に大阪北部を襲った直下型地震大阪市大阪北区、高槻市枚方市吹田市などで震度6弱を記録したこの地震は、ちょうど朝のラッシュ時間帯に起きた。大阪近辺のJR・私鉄・地下鉄が全面的に運転を見合わせる事態となったことで、駅に多くの人が滞留したり、車内に長時間閉じ込められるなどの混乱が発生した。
 前日には、群馬県渋川市震度5弱地震が発生したばかり。今月に入ってから、千葉県沖でもプレートの境界がゆっくりとずれ動く「スロースリップ現象」も起きており、日本全国で大地震への警戒感が高まっている。満員電車にぎゅう詰めの最中に大地震が来たらどうなってしまうのか?都市鉄道の地震対策と、利用時に地震に遭遇した場合の対処法についてまとめておきたい。
 まずは乗車中に地震に遭遇したケースだ。地震を感知した場合、列車は緊急停止する。最近では、緊急地震速報などと連動して自動的に列車を停止させるシステムを導入している鉄道会社も多い。震動の影響で列車が脱線するケースは過去、ないわけではないが、重力加速度を上回る縦揺れが発生する相当規模の地震に限られるため、過剰に心配する必要はない。
 1995年の阪神・淡路大震災のときには、新幹線の高架橋が崩落するなど甚大な被害を受けたが、現在はこれもあまり心配しなくていい。阪神大震災以降、高架線や地下トンネル、盛土などの構造物は耐震補強工事が進められてきた。一部が損傷することはあっても、即座に倒壊するようなことはないので、まずは落ち着いて周囲の状況を確認しよう。
 すぐに救助が来ることは期待できないため、もし転倒してけがをしている人や、取り乱している人がいた場合は、周囲の人と協力して助け合うことが肝心である。

勝手に車外に出るべからず
駅構内では落下物に注意

 地震により緊急停止した列車は、安全が確認できるまでは運転を再開することができない。ほとんどの鉄道会社では、震度5強以上の揺れが確認された場合は線路の徒歩点検を行うため、運転再開までは相当の時間がかかることを覚悟しなければならない。
 そのような場合は、列車から降りて最寄りの駅まで徒歩で避難をすることがあるが、これは周辺の安全確認や、応援の手配が完了してから乗務員の指示によって行われるので、絶対に勝手に列車の外に出てはいけない。
 通勤ラッシュ時間帯の列車は1両当たり200人以上、1編成で1000~2000人以上の乗客が乗っている。応援が来るまでは運転士と車掌の2人(ワンマン運転の場合は運転士1人)で対応しなければならないため、乗客が勝手に動き出したら収拾がつかなくなり、避難完了や運転再開がさらに遅れることになる。仮に車両の一部がホームにかかっている場合でも、指示があるまではドアを開けずに待ってほしい。
 満員電車の中では換気も問題になる。地震を感知して送電が停止された場合、車内空調も停止してしまう。最近の鉄道車両では固定式の窓も増えているが、一部の窓は換気用に開閉できるようになっていることを覚えておこう。また、避難の際にも乗客相互で助け合いたいものだ。
 続いて駅構内にいた場合だ。線路と同様に高架駅、地下駅についても耐震補強工事が進んでおり、駅が即座に崩壊、倒壊することはない。慌てて逃げようとせず、まずは身の安全を守ろう。
 駅そのものが崩れることはなくても、天井のパネルや案内板などが落下する可能性がある。今回の大阪の地震でも、ホームの駅名板や電光掲示板の落下が確認されている。これらはプラスチック製のパネルでも数キログラム以上、電光掲示板など大型の筐体では数十キロ以上のものもあり、頭部を直撃すると命の危険がある。またガラスが割れる恐れもある。頭上や周辺に危険なものがある場合は距離をとり、とにかく頭を守るようにすることが望ましい。

地下鉄構内は非常用電源が整備
真っ暗にはならないので慌てずに

 地下駅の照明は通常よりも暗くなるが、30分以上点灯できるバッテリー内蔵の非常灯があるため、真っ暗になることはない。また、停電が発生しても、防災用設備や排煙装置などは非常用発電機で稼働できるようになっている。出口に殺到するなどパニックが発生することが一番危険であり、とにかく落ち着いて、駅員の指示に従って地上に避難しよう。
 駅構内に損傷があったり、余震による被害が懸念される場合は、駅を封鎖することがある。運行状況や運転再開見込みが気になって、とりあえず駅に向かう人がいるが、大地震時には駅に行くべきではない。
 駅は大人数が滞留できるようには作られていないため、多くの人が詰めかけてしまうと混乱を助長するだけなのだ。また、駅は避難所にはならないということも留意してほしい。
  地震の規模にもよるが、運転再開までは長い時間がかかると思った方がいい。まず安全を確認してから乗客を避難させ、揺れの大きかった区間の全ての線路、駅、橋梁など設備の安全を確認し、損傷があれば補修が完了してからようやく運転を再開できる。設備に大きな損傷が発生した場合は、数日から数週間単位で運行ができなくなることも考えられる。
 2005年7月に発生した千葉県北西部地震では最大震度5強であったが、運転再開まで最長4時間を要した路線があった。11年3月の東日本大震災では、最大震度6弱を記録した首都圏ではJRや一部の私鉄が終日運転を見合わせ、運転再開が最も早かった地下鉄でも地震発生から6時間程度を要している。
 運転再開した一部の路線に乗客が集中し、駅が大混乱したことにより再度運転を見合わせたケースもあったため、勤務先や避難所などで安全が確保できている場合は無理に帰ろうとせず、状況が落ち着くまで待機した方がいい。また、運転再開されたからといって、何が何でも出勤、という風には考えない方がいい。会社側も、災害時の鉄道インフラは混乱がつきものだという事実を頭に入れておくべきで、根性論での出勤を要求してはならない。
 鉄道には多くの人が集まるだけに、パニックによる混乱がもっとも怖い。正しく恐れつつ、落ち着いて行動できるよう、自分の通勤・通学経路上で地震が発生した場合を想定し、どのように行動するか、心の準備をしておいてほしい。


鉄道コム