近く消滅、「2階建て新幹線」は再登場するか? 海外ではフランスのTGVで圧倒的主力だが…
この春のダイヤ改正から、上越新幹線にE7系電車が走り始める。E2系電車を置き換えることになるが、もうひとつ気になるのは、1997年に第2世代の"新幹線通勤"用車両として登場したE4系2階建て電車の動向である。東北新幹線からはすでに姿を消し、全26編成中の約半分が引退しているが、上越新幹線では今もなお"MAXとき"と"MAXたにがわ"として、毎日元気よく、新潟と東京の間を往復している。
【2018年2月1日9時20分 追記】記事初出時、100系2階建て車両の記述に誤りがありましたので、上記のように修正しました。
その後1994年には、当時増え続けていた東北新幹線での新幹線通勤に対応するために、1編成全部を2階建てとしたE1系電車が開発された。1編成の長さは12両で、当時の主力だった200系電車の標準的な編成と同じで、定員は200系の895人に対して1235人と3割以上も増加した。このE1系は1995年までに6編成が製造されている。
100系とE1、E4系は発想が違う
1997年にはE1系の経験を生かしたE4系が開発された。こちらは8両編成で、同じE4系や、山形新幹線の400形と併結しての運転も可能な構造となった。一般的な特徴としては、先頭部の造形が、より空気抵抗が小さくトンネルに入る時の大きな気圧変化による衝撃音(微気圧波)が発生しづらい形状に変更されたことと、カラーリングが目立つ点である。こちらは2003年までに26編成が造られている。
同じ2階建て電車といっても、100系とE1、E4系とでは発想が大きく違う。100系では定員増よりも、車窓眺望のよい食堂車や個室などの新しいサービスを提供するのが目的だった。のちにJR西日本が"グランドひかり"として4両を2階建てとした編成を導入したのは、その極みである。
同じような2階建て新幹線電車は東北新幹線の200系にも存在した。これはJR東日本が1990年に導入したもので、2階をグリーン席とし、1階を個室のグリーン席と普通席とした車両と、1階をカフェテリアとした車両の2種をペアとした。6組しか造られず、しかも2005年には引退してしまったから、今では記憶から薄れてしまっている人も少なくないだろう。
それに対してE1系、E4系は、最初に記した通り、新幹線で通勤する乗客をさばくのが目的だったから、ひたすら定員を増やすことに工夫が凝らされた。それが最も顕著に現われているのが、普通車自由席2階の座席配置である。通常の新幹線普通車が通路を挟んで2人と3人の5人掛けであるのに対して、3人と3人の6人掛けなのである。また背もたれは固定式で隣の席とのひじ掛けも省略、さらに通路の幅も極限まで切り詰められた。
2階建てを採用したため、車両の重さは通常の車両よりも増加した。その結果として、性能上の制限から最高速度を上げることもできなかった。しかしそれでも、2階建て新幹線は必要とされたのだった。
新幹線通勤が「2階建て」に貢献
日本では、企業における通勤手当の一定限度額は非課税対象となっており、現在は月額15万円とされている。
これは東北新幹線ならば東京を起点として新白河以南をカバーする金額である。かつてはもっと限度額が低かったわけだが、それでも"マイホーム"を手に入れようとする多くの人が、その購入資金と通勤費用を天秤にかけ、通勤の費用が多少かかったとしても、それに見合うだけの安くて広い我が家を求める方がよいという結論に達した結果、1980年代から新幹線通勤が増加しはじめた。それをプッシュしたのが、国鉄が"フレックス"という特別企画乗車券―実質的な新幹線定期―を1983年に発売したことである。
一方、バブル崩壊にともなう景気減退により、今世紀に入ったころから、企業によっては新幹線通勤補助制度を廃止する例もある。また、地価がピーク時に比べて下落したことや共働き世帯の増加などの理由で居住地を都心近くに求める傾向もあいまって、新幹線通勤のニーズは一時期に比べて少ないようにも見える。
1981年、最初にTGV(超高速列車)を走らせたパリとリヨンの間(PSE=パリ南東線)はビジネス客も観光客もともに多く、第2世代の主力車両として全2階建て編成のTGV デュプレックスを導入した。最初の編成は1995年に完成し、翌年から第1世代のTGV PSEを置き替え始めた。
そして2007年には、新しいシステムを採用した2階建てTGVの第2世代の製造が開始された。この新型車は、2013年には地中海沿いのペルピニャンから国境を越えてスペインのフィゲラスへの路線でも使われ始めた。さらに2016年にはPOE(LGV東ヨーロッパ線)に、続いてPSEA(LGV南ヨーロッパ大西洋線)での試験も開始され、今やフランスのTGVネットワークは、2階建て編成が主力となった感がある。
ドイツは「くつろぎの空間」を重視
では、もうひとつの高速列車ネットワーク大国であるドイツではどうだろうか。
1991年に営業運転を開始した最初のICE(インターシティエクスプレス)に組み込まれた食堂車は屋根が高くなっているが、食事のための空間を、高い天井のゆったりした雰囲気で演出するのが狙いであるにすぎない。これはICE全体のコンセプトである"くつろぎの空間で高速の旅を"に沿うものであり、通常の客室も車両限界いっぱいの幅や高さで作られている。
このような違いが生じるのはなぜか。さまざまな理由が考えられるが、両国の都市間輸送の構造が異なっているというのが、最大の要因ではないか。フランスは各方面の各都市がそれぞれにパリと直接結ばれ、輸送需要がパリに集中している。それに対してドイツでは、中程度の勢力を持つ都市が全国に分散して存在していて、道路も鉄道もそれぞれの都市圏を網の目のように結んでおり、輸送需要が分散しているのだ。
フランスでのTGVとドイツの初期ICEで共通しているのは、動力車を編成の両端に置いていることである。ドイツのICEは、第3世代から日本の新幹線のように中間の車両にもモーターを取り付ける構造に転換した。フランスでも同じような構造をAGVという名前で開発し、イタリアを走る高速鉄道で使われているが、現在の技術ではこのAGVを2階建てにすることは難しいという。ではどうするのか。世界中の鉄道技術者が次世代TGVの動向に注目している。